福祉・介護職員等特定処遇改善加算の概要
福祉・介護職員等「特定」処遇改善加算(一般的に「特定処遇改善加算」と言われます)は、事業所における中核となる人材を対象とした賃金改善を目的とする制度です。
ここでいう「中核人材」というのは、例えば「福祉・介護業界における勤続年数が10年以上あり、介護福祉士資格を有する者」など、実務経験が相当年数あり、かつ福祉系の国家資格を有する人材を想定しています。サービス管理責任者や児童発達支援管理責任者が典型例といえるでしょう。
特定処遇改善加算は、福祉・介護職員処遇改善加算(特定処遇改善加算と区別するために「普通処遇改善加算」と言ったりします)とは別枠で考えますが、計画書や報告書といった書類の提出は普通処遇改善加算と特定処遇改善加算を同時に提出します。そのため、計画書や報告書の様式は統一されています。
さらに、特定処遇改善加算では、普通処遇改善加算では配当の対象とできなかった「サービス管理責任者」や「児童発達支援管理責任者」「事務員」「調理員」などにも配当が可能です。
※福祉・介護職員処遇改善特別加算(一般的に「特別処遇改善加算」と言われます)という加算もありましたが、令和4年3月31日をもって廃止されました。
福祉・介護職員等特定処遇改善加算の加算率
特定処遇改善加算においても普通処遇改善加算と同じようにサービスごとに加算率が決められています。特定処遇改善加算の加算率は以下のとおりです。
特定処遇改善加算の加算率(令和元年10月~)
サービス区分 | 特定処遇改善加算 | |
---|---|---|
新加算Ⅰ | 新加算Ⅱ | |
居宅介護 | 7.0% | 5.5% |
重度訪問介護 | 7.0% | 5.5% |
同行援護 | 7.0% | 5.5% |
行動援護 | 7.0% | 5.5% |
療養介護 | 2.1% | 1.9% |
生活介護 | 1.4% | 1.3% |
自立訓練(機能訓練) | 4.0% | 3.6% |
自立訓練(生活訓練) | 4.0% | 3.6% |
就労移行支援 | 1.7% | 1.5% |
就労継続支援A型 | 1.7% | 1.5% |
就労継続支援B型 | 1.7% | 1.5% |
共同生活援助 (介護サービス包括型) |
1.9% | 1.6% |
共同生活援助 (日中サービス支援型) |
1.9% | 1.6% |
共同生活援助 (外部サービス利用型) |
1.9% | 1.6% |
児童発達支援 | 1.3% | 1.0% |
医療型児童発達支援 | 1.3% | 1.0% |
放課後等デイサービス | 1.3% | 1.0% |
福祉型障害児入所施設 | 4.3% | 3.9% |
医療型障害児入所施設 | 4.3% | 3.9% |
サービス区分 | 新加算 | |
(特定処遇改善加算が1段階のサービス) | ||
重度障害者等包括支援 | 6.1% | |
施設入所支援 | 2.1% | |
居宅訪問型児童発達支援 | 1.1% | |
保育所等訪問支援 | 1.1% |
加算算定非対象サービス
サービス区分 | 加算率 |
---|---|
就労定着支援、自立生活援助、計画相談支援、障害児相談支援、地域相談支援(移行)、地域相談支援(定着) | 0% |
福祉・介護職員等特定処遇改善加算の見込額の計算方法
特定処遇改善加算を算定したい場合、その見込額はどのように計算すればよいのでしょうか?
例えば、就労移行支援の事業所の1ヶ月の報酬総額単位が200,000単位で、特定処遇改善加算については新加算Ⅰを算定、1単位10円である場合を仮定すると、
報酬総額単位 200,000単位 × 2.0% × 10円 = 40,000円
となり、月40,000円の特定処遇改善加算を算定することができるということになります。
福祉・介護職員等特定処遇改善加算の算定要件と配分ルール
特定処遇改善加算では、現行処遇改善加算よりも複雑な算定要件と配分ルールが決めていますので、特定処遇改善加算を利用して賃金改善をするにしてもその配分ルールを守りながら配分しなければなりません。
特定処遇改善加算の算定要件
(1)特定処遇改善加算の区分(Ⅰ・Ⅱ)
特定処遇改善加算にはⅠとⅡの区分があり、区分によって加算率が異なります。
また、区分ごとに求められる要件も違います。
(2)特定処遇改善加算の要件と区分の決定
特定処遇改善加算を算定する場合、まずは加算算定のための要件を確認する必要があります。特定処遇改善加算の要件は次の4つです。
特定処遇改善加算の要件
(1)配置等要件
「福祉専門職員配置等加算」を算定していること。
(2)現行加算要件
現行処遇改善加算の(Ⅰ)から(Ⅲ)のいずれかを算定している。
(現行処遇改善加算の(Ⅳ)(Ⅴ)では不可です)
(3)職場環境等要件
- 資質の向上
- 職場環境・処遇の改善
- その他
上記の各区分ごとに1つ以上の取組みを実施すること。
(4)見える化要件
上記(3)の職場環境等要件の取組みを「障害福祉サービス等情報検索サイト」へ公表したり、自社ホームページに掲載するなどして公表すること。
上記(1)の配置等要件の内容である「福祉専門職員配置等加算」を算定しているか否かで特定処遇改善加算の区分Ⅰか区分Ⅱが決まります。各要件を詳しくみてみましょう。
(1)配置等要件
配置等要件を満たすためには「福祉専門職員配置等加算」を算定している必要があります。
(居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護にあっては特定事業所加算)
福祉専門職員配置等加算の概要は以下のとおりですが、加算区分1~加算区分3のどれを算定していても配置等要件は満たされます。
福祉専門職員配置等加算1(15単位)
常勤の職業指導員・生活支援員・就労支援員の中に、社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士・公認心理士・作業療法士のいずれかの資格を持つ人が35%以上いる。
福祉専門職員配置等加算2(10単位)
常勤の職業指導員・生活支援員・就労支援員の中に、社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士・公認心理士・作業療法士のいずれかの資格を持つ人が25%以上いる。
福祉専門職員配置等加算3(6単位)
以下のいずれかの場合に算定できる。
- 生活支援員・職業指導員・就労支援員のうち75%以上が常勤職員
- 生活支援員・職業指導員・就労支援員のうち30%以上が勤続3年以上の常勤職員
(2)普通加算要件
普通処遇改善加算(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅲ)のどれかを算定していることが必要です。
※普通処遇改善加算(Ⅳ)(Ⅴ)を算定していても普通加算要件は満たしていることにはなりません。
(3)職場環境等要件
職場環境等要件は、
- 「資質の向上」
- 「職場環境・処遇の改善」
- 「その他」
の3つの分野に分けられます。
特定処遇改善加算における職場環境等要件を満たすためには、複数の取組を行い、「入職促進に向けた取組」、「資質の向上やキャリアアップに向けた支援」、「両立支援・多様な働き方の推進」、「腰痛を含む心身の健康管理」、「生産性向上のための業務改善の取組」及び「やりがい・働きがいの構成」の6つの区分から任意で3つの区分を選択し、選択した区分でそれぞれ1つ以上の取組を行うこと。なお、処遇改善加算と特定加算とで、別の取組を行うことは要しません。
分類 | 職場環境等要件 |
入職促進に 向けた取組 |
法人や事業所の経営理念や支援方針・人材育成方針、 その実現のための施策・仕組みなどの明確化 |
事業者の共同による採用・人事ローテーション・研修の ための制度構築 |
|
他産業からの転職者、主婦層、中高年齢者等、経験者・ 有資格者にこだわらない幅広い採用の仕組みの構築 |
|
職業体験の受入れや地域行事への参加や主催等による 職業魅力向上の取組の実施 |
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資質の向上や キャリアアップに 向けた支援 |
働きながら介護福祉士等の取得を目指す者に対する実務者 研修受講支援や、より専門性の高い支援技術を取得しようと する者に対する喀痰吸引研修、強度行動障害支援者養成 研修、サービス提供責任者研修、中堅職員に対するマネジ メント研修の受講支援等 |
研修の受講やキャリア段位制度と人事考課との連動 | |
エルダー・メンター(仕事やメンタル面のサポート等をする 担当者)制度等の導入 |
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上位者・担当者等によるキャリア面談など、キャリアアップ等 に関する定期的な相談の機会の確保 |
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両立支援・多様な 働き方の推進 |
子育てや家族等の介護等と仕事の両立を目指すための休業制度 等の充実、事業所内託児施設の整備 |
職員の事情等の状況に応じた勤務シフトや短時間正規職員制度 の導入、職員の希望に即した非正規職員か正規職員への転換の 制度等の整備 |
|
有給休暇が取得しやすい環境の整備 | |
業務や福利厚生制度、メンタルヘルス等の職員相談窓口の設置等 相談体制の充実 |
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障害を有する者でも働きやすい職場環境の構築や勤務シフトの配慮 | |
腰痛を含む心身の 健康管理 |
福祉・介護職員の身体の負担軽減のための介護技術の修得支援、 介護ロボットやリフト等の介護機器等の導入及び研修等による 腰痛対策の実施 |
短時間勤務労働者等も受診可能な健康診断・ストレスチェックや、 従業者のための休憩室の設置等健康管理対策の実施 |
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雇用管理改善のための管理者に対する研修等の実施 | |
事故・トラブルへの対応マニュアル等の作成等の体制の整備 | |
生産性向上のため の業務改善の取組 |
タブレット端末やインカム等のICT活用や見守り機器等の介護ロボット やセンサー等の導入による業務量の縮減 |
高齢者の活躍(居室やフロア等の掃除、食事の配膳、下膳などのほか、 経理や労務、広報なども含めた介護業務以外の業務の提供)等による 役割分担の明確化 |
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5S活動(業務管理の手法の1つ。整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字を とったもの)等の実践による職場環境の整備 |
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業務手順書の作成や、記録・報告様式の工夫等による情報共有や作業負担の軽減 | |
やりがい・働きがい の構成 |
ミーティング等による職場内コミュニケーションの円滑化による個々の 福祉・介護職員の気づきを踏まえた勤務環境や支援内容の改善 |
地域包括ケアの一員としてのモチベーション向上に資する、地域の 児童・生徒や住民との交流の実施 |
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利用者本位の支援方針など障害福祉や法人の理念等を定期的に学ぶ 機会の提供 |
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支援の好事例や、利用者やその家族からの謝意等の情報を共有する 機会の提供 |
(4)見える化要件
上記(3)職場環境等要件で実施した職場環境改善の内容を次のいずれかの方法で公表する必要があります。
- 「障害福祉サービス情報等公表検索サイト」への掲載
- 自社ホームページへの掲載
- その他の方法による掲載
例えば、「事業所の建物で外部から見える場所への掲示」による公表も認められています(事業所内のみの掲示は不可)
特定処遇改善加算の配分ルール
特定処遇改善加算の配分には一定のルールがあります。
ルール1:事業所の全職員を「Aグループ」「Bグループ」「Cグループ」の3つのグループにわける。各グループの属性は以下のとおりです。
・介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士、保育士資格を持つ福祉・介護職員
・心理指導担当職員、サービス管理責任者、児童発達支援管理責任者、サービス提供責任者
・キャリア10年未満で福祉・介護職員、心理指導担当職員、サービス管理責任者、児童発達支援管理責任者、サービス提供責任者
・キャリア10年以上で資格を持たない福祉・介護職員
・管理者、医療職(医師、看護職員、OT、PT、ST)、運転手、調理員、事務職員など
上記のように各グループの属性の概要は決められていますが、Aグループに該当する職員がいない場合のように事業所によっては明確にグループ分けすることが難しい場合もありますので、事業所の裁量である程度は柔軟にグループ分けすることが認められています。詳細なグループ分けのルールについては自治体の判断によるところが大きいですので、管轄の自治体に確認するようにしましょう。
ルール2:それぞれのグループに配分する金額を設定。
それぞれのグループに特定処遇改善加算額を配分する際に注意すべき条件が2つあります。
・Bグループの平均賃金改善額はCグループの平均賃金改善額の2倍以上であること。
※Cグループの平均賃金改善額がBグループの平均賃金改善額を上回らない場合は、当該条件は満たしているものとされます。ただし、BC両グループの平均賃金改善額が等しくなる(1:1)までが限界です。
※現に賃金が年額440万円以上の者がいる場合は当該条件を満たしているものとされます。
特定処遇改善加算の配分については、上記条件のとおり全職員をABCの3つのグループに分けて、配分を条件1・2の配分ルールどおりに配分するのが原則ですが、例外的なケースとして以下のような取扱いが認められています。
例えば、事業所を新設したばかりのため経験・技能ある福祉・介護職員がいない事業所や、月額8万円以上の賃金改善または年額440万円水準への賃金改善が難しい事業所などの場合。
この場合、Bグループの賃金改善額がCグループの賃金改善額の2倍以上であることが必要です。
※Aグループの設定が例外的に困難な場合は、設定しない理由を計画書に具体的に記載する必要があります。
例えば、福祉・介護職員の定着が進んでおり、Bグループとなる職員がいない場合。
この場合、Aグループの賃金改善額がCグループの賃金改善額の4倍以上であることが必要です。
例えば、事務職や調理員といった職員がいない場合。
この場合、Aグループの賃金改善額はBグループの賃金改善額の2倍以上であることが必要です。
例えば、職員の定着が安定しており、10年以上のキャリアをもつ福祉・介護職員しかいない場合。
この場合、グループ間の配分比率は問題になりませんが、1人以上は月額平均8万円以上または賃金改善後年額440万円以上となるように配分する必要があります。
また、上記のいずれの場合も全職員への周知は必要です。
福祉・介護職員等特定処遇改善加算の提出手続き
福祉・介護職員等「特定」処遇改善加算を算定するには、事業所を管轄している各自治体(指定権者)に定められた期限までに、所定の書類を提出する必要があります。自治体(指定権者)によって若干の違いがある場合がありますが、多くの自治体では以下のような期限までに提出することとなっています。
Ⅰ、「特定」処遇改善加算の計画書を提出する
□新規で特定処遇改善加算を算定したい事業所・・・加算算定月の前々月末日までに提出
福祉・介護職員等特定処遇改善加算(特定処遇改善加算)を取得しようとする事業所では、管轄の自治体(指定権者)に「障害福祉サービス等処遇改善計画書」を提出するのですが、この際に現行処遇改善加算の書類も同時に提出するようにします。
普通処遇改善加算と特定処遇改善加算のそれぞれの計画書は統一される予定ですので、特定処遇改善加算を算定したい場合には、普通処遇改善加算と同時に計画書を作成し提出します。
福祉・介護職員等特定処遇改善加算(特定処遇改善加算)の計画書は、「毎年4月から翌年3月までの福祉・介護職員等の処遇改善に関する計画」を提出します。
この計画書は特定処遇改善加算を算定したい年度は事前に「毎年度」提出する必要があります。原則として、毎年2月末日が期限となっていますが、提出し忘れるとその対象期間は特定処遇改善加算が算定されませんので注意しましょう。
※特定処遇改善加算の計画書は、あくまでも「計画」ですので、実際の配分額が計画書どおりとならなくても問題ありません。ただし、特定処遇改善加算の配分ルールを守らなければなりませんし、実績報告書には実際に支払った配分方法を記載し報告しなければなりません。
Ⅱ、処遇改善加算の報告書を提出する。
福祉・介護職員等特定処遇改善加算(特定処遇改善加算)を算定した事業所では、「前年度は実際にどのような賃金改善を行ったのか?」という内容の実績の報告書を提出しなければなりません。この特定処遇改善加算の実績報告書の提出も処遇改善加算の算定要件ですので、提出し忘れてしまうと加算で算定された金額の返還となってしまいます。
※特定処遇改善加算の実績報告書は、国民健康保険団体連合会(国保連)から毎月送付される「特定処遇改善加算総額のお知らせ」をもとに、賃金改善実施期間における賃金改善額を計算します。
福祉・介護職員等特定処遇改善加算の書類作成・提出代行の料金(大阪・京都・奈良の事業所様 限定)
当事務所では、福祉・介護職員等特定処遇改善加算(特定処遇改善加算)の計画書の作成・提出、実績報告書の作成・提出の業務を受け賜わっております。特定処遇改善加算の書類作成・提出代行は現行処遇改善加算とのセットでのみの業務受託となります。
(当事務所の対象エリアとして、大阪・京都・奈良の事業所様を対象としておりますが、大阪・京都・奈良以外にも事業所がある法人様は一度ご相談ください。)
計画書 作成・提出代行(税別) | 1法人(5事業所まで) 10万円~ |
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※5事業所を超える場合は別途お見積りとなります。
※上記金額は現行処遇改善加算の算定と同時に特定処遇改善加算も算定するための計画書を作成・提出代行する場合です。現行処遇改善加算の計画書作成・提出代行の料金も含みます。
報告書 作成・提出代行(税別) | 1事業所 7.5万円。 但し、最低15万円~ |
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※1事業所の従業員の人数が10人以上となる場合は別途お見積りとなります。
※上記金額は普通処遇改善加算の報告書と同時に特定処遇改善加算の報告書も作成・提出代行する場合です。普通処遇改善加算の報告書作成・提出代行の料金も含みます。
当事業所と顧問契約を締結されている事業所様におかれましては、処遇改善加算の書類作成・提出代行の料金が顧問業務に含まれる場合がございますので、その場合は顧問契約の範囲内での業務となります。
ご依頼いただく際にご準備いただくとスムーズな資料
- 全従業員の賃金改善実施期間の給料明細もしくは賃金台帳(写し)
- サービス提供期間(4月~翌年3月)が対象となる「処遇改善加算総額のお知らせ」
- サービス提供期間(4月~翌年3月)が対象となる「特定処遇改善加算総額のお知らせ」