就労継続支援の事業所は交通費を支給してもいいのでしょうか?
就労継続支援の事業所からのお問い合わせが多いのが交通費の取扱いについてです。就労継続支援A型や就労継続支援B型を運営している事業所が利用者さんに交通費を支給してもいいのでしょうか?
就労継続支援を利用している利用者さんへの交通費について、生活保護を受給している利用者さんについては工賃金額が影響しますので、就労継続支援と交通費と生活保護の関係をわかりやすくまとめました。
交通費は利用者さんの自己負担
利用者さんの交通費は原則として利用者さん自身の自己負担となります。そのため、事業者は「訓練等給付金」からも「生産活動収益」からも「交通費」を支給してはいけません。
※就労継続支援A型の事業所においては、労働基準法をはじめとした労働関係法令に準拠した交通費を支給することは可能です。
自治体による交通費の助成
一部の市区町村では一定の基準を満たす人を対象に交通費の助成金を出しているケースもあります。助成金の支給条件は自治体によって異なりますので必ず自治体に確認するようにしましょう。
例えば、大阪市の場合、交通費の助成があります
障がい者訓練等通所交通費支給要綱
https://www.city.osaka.lg.jp/fukushi/page/0000199668.html
大阪市障がい者訓練等通所交通費支給要綱の抜粋
支給対象者
大阪市が支給決定している障がい者のうち、次の各号のすべてに該当する者。
(1)大阪市に居住している者
(2)自立訓練(機能訓練・生活訓練)事業、就労移行支援事業、就労継続支援事業B型事業を利用している者
(3)障害者総合支援法施工令第17条に規定されている低所得1,2及び所得割16万円未満の者
(4)公共交通機関を利用しなければ、通所することが困難な者(定期乗車券購入者に限る)
※他の制度により通所交通費等が支給される場合(生活保護受給者等)は、対象外となります。
※上記の対象者が独力で通所できない場合においては、当該対象者の通所を介助する介護人についても支給対象者となります(ただし、身体障がい者手帳が第1種又は療育手帳がA判定である対象者を介助する介護人とします)。
支給額
- 上限1ヶ月5,000円
- 利用区間の1ヶ月の定期乗車券購入に要する額の半額
- 3ヶ月定期または6ヶ月定期を購入している場合には、その金額を月数で除した額(小数点以下切捨て)の半額
- 複数の事業所を利用する場合は、主たる利用が認められる事業所(月の利用日数が多い方)への通所交通費を支給
- 交通機関を利用する場合に、別途、交通無料乗車証の受給資格があるときは、その乗車証の利用区間は通所交通費の支給対象とはしない。
- 各交通機関において割引及び免除が受けられる場合は、割引を適用後の額を交通機関に要する費用として算定する。
- 対象者が、その月において一日も通所しなかった場合は通所交通費を支給しない。
- 月の途中に事業所の利用を開始した場合は、利用開始日がその属する月の15日まではその月から、利用開始日がその属する月の16日以降の場合は、翌月から通所交通費を支給。
- 定期乗車券有効期間の開始日がその属する月の15日まではその月から、開始日がその属する月の16日以降の場合は、翌月から通所交通費を支給する。
- 事業所からの退所又は受給者の辞退等が発生したときは、その日の属する月の翌月から通所交通費の支給を停止する。
生活保護受給者
就労継続支援の利用者さんで生活保護を受給している方は、事業所まで通所する交通費はどうなるのでしょうか?
結論からいうと、交通費そのものが支給されるのではなく、給料(工賃)から交通費分が控除されます。つまり、本来「収入認定」される金額から「交通費」を差し引いた金額が「収入認定」されるのです。
ざっくりと説明すると、原則として、生活保護を受給している人が「収入」を得ると、その分保護費の支給額が減ります。
しかし、労働で得た収入(工賃)の場合は、その金額すべてを保護費から減らすのではなく、「勤労控除(基礎控除)」という制度があり、頑張って稼いだお金の場合は、少しおまけで差し引かれる金額が少なくなり、結果的に手元に残るお金が多くなります。
この勤労控除(基礎控除)という制度は、仕事で得た収入に適用されるので、両親や兄弟、親戚からもらったお金に勤労控除は適用されません。つまり、働いて得た収入ではなくて、誰かからもらったようなお金の場合は、もらった金額そのまま全部が保護費から差し引かれます。
生活保護の勤労控除(基礎控除)の計算方法
勤労控除(基礎控除)とは、生活保護受給者が、働くことによって勤労意欲が落ちないように、働いて得た収入の一部が生活保護費の減額対象にならない制度です。
<ケース1>就労継続支援B型に通所している利用者さんの工賃が20,000円だった場合
※国が決めた最低生活をするのに必要なお金を10万円とします。
※就労収入(工賃)20,000円の基礎控除額=15,600円
- 支給額=100,000円-(20,000円-15,600円)=95,600円
- 手元に残るお金=95,600円+20,000円(工賃)=115,600円
働かないで利用者さんがもらえるお金は10万円ですが、就労継続支援の事業所で働いて20,000円の工賃を稼いだ場合は、自由に使えるお金は115,600円になります。この場合は、何もしないより働いた方が自由に使えるお金が15,600円多くなります。
<ケース2>就労継続支援B型に通所している利用者さんの工賃が12,000円だった場合
※国が決めた最低生活をするのに必要なお金を10万円とします。
※就労収入(工賃)12,000円の基礎控除額=12,000円(就労収入が15,000円以下の場合は収入金額と同額のため)
- 支給額=100,000円-(12,000円-12,000円)=100,000円
- 手元に残るお金=100,000円+12,000円(工賃)=112,000円
働かないで利用者さんがもらえるお金は10万円ですが、就労継続支援の事業所で働いて12,000円の工賃を稼いだ場合は、自由に使えるお金は112,000円になります。この場合は、何もしないより働いた方が自由に使えるお金が12,000円多くなります。
基礎控除額表(収入認定用)(単位:円)
収入金額 | 控除額 | 収入金額 | 控除額 |
---|---|---|---|
~ 15,000 | 収入額と同額 | ~ 134,999 | 26,800 |
~ 15,199 | 収入額と同額 | ~ 138,999 | 27,200 |
~ 18,999 | 15,200 | ~ 142,999 | 27,600 |
~ 22,999 | 15,600 | ~ 146,999 | 28,000 |
~ 26,999 | 16,000 | ~ 150,999 | 28,400 |
~ 30,999 | 16,400 | ~ 154,999 | 28,800 |
~ 34,999 | 16,800 | ~ 158,999 | 29,200 |
~ 38,999 | 17,200 | ~ 162,999 | 29,600 |
~ 42,999 | 17,600 | ~ 166,999 | 30,000 |
~ 46,999 | 18,000 | ~ 170,999 | 30,400 |
~ 50,999 | 18,400 | ~ 174,999 | 30,800 |
~ 54,999 | 18,800 | ~ 178,999 | 31,200 |
~ 58,999 | 19,200 | ~ 182,999 | 31,600 |
~ 62,999 | 19,600 | ~ 186,999 | 32,000 |
~ 66,999 | 20,000 | ~ 190,999 | 32,400 |
~ 70,999 | 20,400 | ~ 194,999 | 32,800 |
~ 74,999 | 20,800 | ~ 198,999 | 33,200 |
~ 78,999 | 21,200 | ~ 202,999 | 33,600 |
~ 82,999 | 21,600 | ~ 206,999 | 34,000 |
~ 86,999 | 22,000 | ~ 210,999 | 34,400 |
~ 90,999 | 22,400 | ~ 214,999 | 34,800 |
~ 94,999 | 22,800 | ~ 218,999 | 35,200 |
~ 98,999 | 23,200 | ~ 222,999 | 35,600 |
~ 102,999 | 23,600 | ~ 226,999 | 36,000 |
~ 106,999 | 24,000 | ~ 230,999 | 36,400 |
~ 110,999 | 24,400 | 231,000 ~ | 収入金額 が4,000円 増加する ごとに +400円 |
~ 114,999 | 24,800 | ||
~ 118,999 | 25,200 | ||
~ 122,999 | 25,600 | ||
~ 126,999 | 26,000 | ||
~ 130,999 | 26,400 |
※厚生労働省の資料を元に作成
※収入金額が23,100円以上の場合は、収入金額が4,000円増加するごとに400円を控除額に加算します。
生活保護の勤労控除の月額は最低15,000円で、収入月額が増えるほど控除額も増える仕組みになっています。
新規就労控除
勤労控除のほかに、「新規就労控除」というものがあります。
新規就労控除とは、新しく仕事を始めた人に対して6ヶ月の間の控除を行う制度です。平成30年の基準では新規就労控除の金額は11,200円です。この新規就労控除は、先ほど説明した勤労控除とあわせて行うこともできます。
<ケース3>新しく就労継続支援B型で働き始めた場合に工賃が40,000円あった場合
※国が決めた最低生活をするのに必要なお金を10万円とします。
- 新規就労控除の金額 11,200円
- 就労収入40,000円の基礎控除額17,600円
- 支給額=100,000円-(40,000円-(11,200円+17,600円))=88,800円
- 手元に残るお金 88,800円+40,000円(工賃)=128,800円
働かない場合だと生活保護で支給されるお金は10万円のみなので、働くと自由に使えるお金が増えるのがわかります。
ちなみに、勤労控除の金額は就労収入が増えるほど高くなります。つまり、働いて稼げば稼ぐほど、勤労控除が増え、自由に使えるお金が増えるということです。また、就労継続支援B型の訓練等給付金の報酬単価は、利用者さんへ支払った平均工賃によって決まりますので、平均工賃があがれば事業所の報酬単価も上がり売上も上がることになります。
※詳細については各自治体の生活保護課ケースワーカーに確認してください。
就労継続支援A型の場合は、労働関係法令の適用がありますので、労働法に準拠して事業所から利用者さんに交通費を支給することは可能です。
就労継続支援B型の場合は、原則として利用者さんに交通費を支給することはできません。しかし、自治体によっては交通費の助成があるところがありますし、生活保護を受給している利用者さんについては勤労控除という形で交通費分が考慮されることになります。
就労継続支援の事業所では、事業所の収入としては「訓練等給付」と「生産活動収益」の二種類があるため、それらを分けて考える必要があります。また、就労継続支援B型では、「生産活動収益」から利用者さんへ支払った工賃の平均額が「訓練等給付」の報酬単価になります。
就労継続支援の制度を正しく理解し、ンプライアンスを意識した事業所運営を行うようにしましょう。